それから


その子はその話をしながら、表情を変えずにとめどなく涙を流しました。
それはまるで凍った瞳が溶けて行っているようでした
その時のその子の瞳に、初めて生を感じました。
これまではのようでした。
そういうことがその子の瞳を凍らせてしまっていたのだと、やっと理解出来た気がして少しでも役に立ててよかったと思いました。
そしてその子はその時以来、授業の合間の休み時間が来る度に、過去について胸の内から溢れ出すように話し始めました。

私達はその子の話を黙ってずっと聞いていました。

その子は物心付いた頃からかなり苦労していました。
その子の両親はその子が幼い頃から喧嘩が絶えなかったそうです。
それはいつもおかねについてで、取っ組み合いの喧嘩も絶えず、その子はある日その喧嘩に巻き込まれて怪我をしたそうです。
その怪我は大したことはなかったそうなのですが、その頃から今思えば成長が止まったようだと言っていました。
それは特に身長に現れていて、その当時のまま高さは変わっていないそうです。
それでこれまでに治療を受けたことがあったそうですが、上手くは行かず中学生になっても背の順番はクラスで一番前なのだと言っていました。
大人になりたくないという思いもあるかもしれないとも言っていました。
家ではいつも両親の喧嘩が絶えず、未だにお父さんは自分におかねを貸してとせびってくるので、そんな大人になりたくないと小さな声で溜め息混じりに話していました。
それから数ヵ月後に、その子は引っ越してしまいました。

最後にバイバイと言った時の血の通った温かい瞳が忘れられません。
その瞳のままその後は自分に正直に過ごし、そして幸せな生活をご家族共々送っていて欲しいと願うばかりです。